お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
そんな三人のやり取りを、それ以上見ていたくはない。千花は今歩いてきた通路をおぼつかない足取りで戻った。
妻の立場なら、あの場で修矢に詰め寄るべきだったのかもしれないと、千花はふと考える。
でもそれができなかったのは、まだふたりの歴史が浅いから。修矢と千花は、始まってから四ヶ月弱。とてもあの三人には敵わない。
病院のエントランスを出ると、目の前で路線バスのドアが開いた。
ここから早く立ち去りたい。そんな想いが千花をバスに乗せた。一番後ろの窓際のシートに座り、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺める。
車内の電光掲示板に停留所の名前が表示されているが、千花はそれすら目に入らない。マイクを通す運転手の声もまた、耳に入らなかった。
バスがどこへ向かうのかも、千花自身がどうするのかも、なにもわからないままバスの揺れに身を任せた。
何度となく再生される、さっきの三人の光景。それはいくら思い返してみても家族の光景でしかなかった。
(修矢さんの妻は私じゃないの? あの人は誰?)
頭の中で問いかけても、誰も答えをくれなかった。