お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
今はまだ、別れ話をする心の準備が千花にはない。
息をひそめたまま緊迫した時間が流れていく。
修矢は今、なにを思っているのか。どうしようと考えているのか。
ドア一枚を隔てた距離がとてつもなく遠く感じて、千花は心細さに膝が震えた。
「……わかった。今夜は帰る。明日の朝、またここへ来るから。そのときには話をさせてくれ」
意外とあっさりと修矢が引き下がり、千花はどこか拍子抜けしてしまった。
修矢がもっと粘って、千花に許しを乞うのを見届けたかったという負の感情に気づいて、自分に嫌気が差す。
千花は期待していたのだろう。修矢がこの場で愛を叫び、心から千花を愛していると言ってくれることを。
そうしてくれれば、もしかしたらこのドアを開けられたのかもしれない。
ある意味、最後の駆け引きだったのだ。
修矢が階段を下りる音を聞きながら、千花はドアをずるずると伝ってその場に座り込んだ。