お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
「このくらい我慢するのよ。着くずれしたら見苦しいでしょ?」
赤香色の地に吉祥古典柄が散りばめられた訪問着は、晴れの日にふさわしい明るい色調。上品さを兼ね備えたかわいらしい着物を着るだけで、少しだけ淀んでいた気分が明るくなるから不思議だ。
通常であれば営業しているわたせキッチンも、今日は臨時休業の文字がガラス扉に貼られている。
自宅マンションの座敷に大きな姿見の鏡を置き、千花はどんどん変わっていく自分の姿を不思議な感情で眺めた。
結婚前まで美容師をしていた美幸は、ヘアメイクも着付けもお手のもの。
肩より長い千花の髪は緩く編み込まれてアップに。生花をあしらったヘアピンでアクセントをつけられた。いつものナチュラルなメイクも、今日はピンクをベースにした柔らかい印象に仕上げてもらった。
「どう? 綺麗でしょ?」
美幸に鏡越しに言われて、千花はこくこくと頷く。
着物は成人式以来だ。普段はカジュアルな服装が多いため、着飾った自分がなんだか気恥ずかしい。
幸助にも「いやぁ、千花がこんなに綺麗な娘だったとはなぁ。魔法をかけられたどこかのお姫様みたいだ」と言われ、千花はちょっと複雑な心境だ。
(いつもの私がよっぽどひどいみたい。……まぁたしかにそうだけど)
千花は唇を軽く尖らせながらも、変身した自分に心を弾ませた。