お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
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外資系高級ホテル『エステラ』。そこは、これまでの千花にはまったく縁のない場所と言ってもいいところだ。
開放感のある高い天井、落ち着いた色調のモダンインテリアは高級感にあふれ、地上三十七階建ての外観は都会に浮かぶ天空リゾートさながら。
その一階にある日本料亭『華のれん』が見合い会場となっている。
タクシーで乗り付けたエントランスに足を踏み入れるところから、渡瀬家一行からため息が漏れ続ける。もはやため息が言語の代わり。
幸助にいたっては口をぽかんと開けてキョロキョロと視線を泳がせ、完全におのぼりさんだ。
千花もそうしたかったが、なんとか我慢しておしとやかに足を進める。慣れない草履で親指と人差し指の付け根がすでに痛むが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
モスグリーンの着物を着た華のれんのスタッフに奥座敷まで案内されたときには、千花の心臓の鼓動は極限まで速くなった。
結婚まで進む確率が限りなくゼロに近いとはいえ、格式ばった見合いの席で緊張しないわけがない。
「お連れ様はお見えになっていらっしゃいます」
スタッフのひと言が千花の胸を張りつめさせる。
まるでピンと張った綱の上を歩いている感覚だ。