お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

それもあり得るかもしれない。二十六歳にもなって千花のメイク技術は、初めてのときからほぼ横ばい。ファンデーションに眉とリップだけのナチュラルメイクが基本で、女子高生の方が数段上手だろう。
千花が自慢できるところといったら色白なところだけ。

もしかしたら、と千花はふと考える。

(そのせいで顔色が悪く見えるのかな。明日からチークも入れた方がいいのかも。そうすれば、少しは血色がよく見えるよね?)

明日の朝のことを想像しながら小児科医を見送ると、彼は何度も頭を下げて振り返りながら名残惜しそうに店を出て行った。


「お次の方、大変お待たせいたしました。ご注文はお決まりですか?」
「幕の内にしようかな」
「幕の内弁当ですね。白米を炊き込みご飯に無料で変更できますが、いかがいたしますか?」


四十代のサラリーマンは千花のにこやかな問いかけに顔をほころばせながら、


「それじゃ、お願いしようかな」


と答える。常連客のその男は、「千花ちゃんはいつも明るくていいね」と付け加えた。

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