お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
千花が驚いているにも関わらず、目の前の彼は涼しい顔のまま。まるで今日が初対面であるかのように「久城修矢です」と名乗る。動じた様子は微塵もない。店で見る無愛想な態度そのものだった。
「ほら、千花ったら」
自分が口をポカンと開けて彼を見ていたことに千花が気づいたのは、美幸に脇腹を小突かれたときだった。慌てて唇を引き結ぶ。
「修矢さんに見惚れちゃったのね」
美幸に突っ込まれ、頬が熱くなった千花はとっさに俯いた。
(ち、違うからっ……!)
たしかに端正な顔立ちをしていることは認めるが、そうではない。店に来ていたお客、しかも愛想のない人が見合い相手だったことに驚いたせいだ。
品良く笑う美弥子の声につられて千花が顔を上げてみれば、そこで修矢とばっちり目が合ってしまった。
その眼差しは怯むほどに強く、真っすぐに千花に注がれている。目が合ってもその視線が一ミリも揺らがないものだから、千花の方がそそくさと逸らすしかなかった。