お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
(せめてニコッとくらいしてくれればいいのに。子供を相手にする小児外科医なら優しい人だろうって言ったのは誰? もうっ、お父さんってば……!)
心の中で憎まれ口を叩くが、千花自身も微笑む余裕はない。それどころか、修矢の射抜くような眼差しに鼓動が飛び跳ねる。
今日の修矢は、光沢のある素材をしたブルーグレーのスーツ姿。おそらくオーダーメイドの高級品なのだろう。
薄いピンクのワイシャツにドット柄の入ったダークブラウンのネクタイが洗練された装いだ。いつもセンスはいいが、今日は輪をかけていた。
「とても素敵な息子さんですね」
渡瀬家の自己紹介がひと通り終わり、美幸がしみじみと言う。
「いいえ、そんなことはないんですのよ。三十一歳にもなって、恋人のひとりもいないんですから。主人ともいつも話していたんです。そろそろ結婚してもらわなくちゃ困るって。なにしろ久城総合病院を継がなければなりませんから、良き伴侶を見つけて体調管理やサポートをしていただきたくてね」
大病院の院長を支える妻というポジションから想像していたのは、上から目線で上品ぶる女性だったが、美弥子は決して高飛車ではない。気品こそあるが、むしろ好感のもてる女性だった。