お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

「そうですか?」
「うん。ここに来るとホッとするし、気持ちがパッと明るくなる」


そう言ってもらえるのは千花もうれしい。


「ありがとうございます。でも、それくらいしか取り柄がないんです」
「それが一番だよ。いいお嫁さんになる。かわいいしね」
「え! 私なんて全然!」


お釣りのやり取りをしながら、千花ははにかんで首を横に振った。千花はこの手のお世辞がちょっと苦手だ。

かわいいなんていうのは挨拶がわり。おはようとなんら変わらない言葉なのだから、真に受けたらダメ。もしもそうじゃないとしたら、幼さゆえの〝かわいい〟だろうと、常々思っていた。


「千花ちゃんはお婿さんでもとって、ここを継ぐのかな」
「お婿さんって。結婚なんてないですから!」


わたせキッチンは千花の祖父母から続いている弁当屋で、街は当時とはすっかり様変わりしているが、親子二代にわたる常連客もおり地域に愛されている。両親は揃って厨房で調理し、千花はそれを手伝うかたわら接客担当である。

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