お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
大学まで出させてもらって就職した食品メーカーをわずか二年足らずで退職。信じていた友人に恋人を奪われ、しばらく部屋からも出られない状態だった。
結婚はおろか、恋もしない。暗い顔で何度も繰り返す千花にふたりはなにも言わず、ただ黙って優しく見守り続けてくれてきたのだ。
千花が結婚を決めたときのふたりの顔は、本当に久しぶりに見た満面の笑みだった。
幸助と美幸への挨拶が済み、コーヒーを飲み干した修矢が切り出す。
「少しの間、千花さんとお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです。お父さん、先にお風呂に入っちゃいましょ」
「ああ、そうだな」
夕食は少しお預け。幸助は美幸に腕を引っ張られて立ち、「ごゆっくりどうぞ」とリビングから揃って出ていった。
ふたりきりになったリビングで、修矢が大きく息を吐き出す。
クールでなにごとにも動じないように見える彼のような人でも、こういう場面は緊張するものらしい。肩から脱力するような感じだった。
「それで、会場の目星は?」
口調がいきなりいつもの修矢に戻る。無愛想モード全開だ。