お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
笑顔を浮かべた千花がさらにタオルを突き出すと、その勢いに押されるようにして男はタオルを受け取った。
「悪いな」
低音でくぐもっていたせいか、男の声はやけに甘く感じた。胸の奥をかすかにくすぐられ、千花はなんだか落ち着かなくなる。
(容姿も声も良いなんて、ずいぶんと恵まれた人だな)
つい千花がボーッと見惚れる。
男はタオルで身体を拭きながらメニュー表に視線を注いでいた。
「日替わり」
ひと言だけで注文を済ませる男。これで愛想があればもっと魅力的だろうにと、千花は日ごろから思っていた。人より飛びぬけていい容姿なのだから、笑顔でもあれば最強だろう。
(……って、大きなお世話よね)
千花は心の中でクスッと笑いながら、頬を引きしめた。
今日の日替わりはピーマンの肉詰めと肉じゃが。母・美幸特製のそれは、娘の千花も子供のころから大好きなメニューである。