お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

笑顔を浮かべた千花がさらにタオルを突き出すと、その勢いに押されるようにして男はタオルを受け取った。


「悪いな」


低音でくぐもっていたせいか、男の声はやけに甘く感じた。胸の奥をかすかにくすぐられ、千花はなんだか落ち着かなくなる。

(容姿も声も良いなんて、ずいぶんと恵まれた人だな)

つい千花がボーッと見惚れる。

男はタオルで身体を拭きながらメニュー表に視線を注いでいた。


「日替わり」


ひと言だけで注文を済ませる男。これで愛想があればもっと魅力的だろうにと、千花は日ごろから思っていた。人より飛びぬけていい容姿なのだから、笑顔でもあれば最強だろう。

(……って、大きなお世話よね)

千花は心の中でクスッと笑いながら、頬を引きしめた。

今日の日替わりはピーマンの肉詰めと肉じゃが。母・美幸特製のそれは、娘の千花も子供のころから大好きなメニューである。

< 8 / 271 >

この作品をシェア

pagetop