年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「輝は忙しいから仕方ないの。私みたいな事務職とは違うんだもん」


バリバリの英語力を駆使して毎日忙しく働いている。
月の半分近くは国外にいて、土日や祝日もあまり関係なく働いている。


「それに、今日の埋め合わせはお正月にしてくれるそうだから」

「ああ。毎年恒例の旅行だね」


ニヤリと口元を緩めてこっちを窺う郁。
その視線にいやらしい妄想を感じ取り、目線を逸せながら「そうよ」と言うと、玄関を上がって廊下を進み出した。


「マム達は?」

「もうとっくに寝たよ。冷蔵庫の中に姉ちゃんの分のケーキが残ってるから」

「今年もマムの手作り?」

「うん。今年はシンプルに生クリームとイチゴだったよ」


まあまあだった、と味の感想を言いながら階段を上がる郁。

私の家は両親と四歳下の郁、そして私の四人暮らしだ。
父は個人で造園業を営んでいて、母はカメラ屋さんでパートをしながら家計を助けている。


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