年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
私はそんな母の手伝いをするのが好きだった。
小学生の頃からよく一緒にお菓子作りや料理を作って遊んだ。


ウキウキしながらトレイにケーキを乗せ、紅茶と一緒に部屋に持って行く。
スマホで写真を撮り、それを輝に送りつつ、『マムの手作り』と言葉を添えた。


程なくして輝から返事が入る。
『美味そう』という言葉と一緒に『ごめん』の文字も。


「いいのに」


まだ気にしてたんだ…と思うと少しだけ嬉しい。
若干拗ねた様子も見せたい気がしたけど、『気にしないでね』と送り返した。


私の方が年上なんだから輝を困らせてはいけない。
彼は社内でも優秀な人材で、エリートラインを真っしぐらに進んでいるんだから、こういう事が多くても我慢しないといけないんだ。


「私のように平凡な事務職じゃないんだから」


そう呟きながら何だか悔しさを感じる。
銀行で働いていた頃よりも安くなった自分の給与を思い出すと、何となく虚しさも覚えるけれど、それを望んだのも自分でしょ、と思い直した。


「もうお金に追われることもないんだから、いいじゃない」


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