年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
ニヤリと微笑むその顔が憎らしい。
それを見遣ると怒りしか湧いてこない。

それに、どんなに母が俺のことを思ってそう願ったとしても、俺自身はそんな未来を望んでない__。


「…それでも、俺はお前の言う通りになんかならないっ!あんな女と誰が結婚なんてするもんかっ!」

「おいおい、あんなというのは失礼じゃないのか。仮にも相手は社長令嬢だぞ。借金もないし、健全な家計で育ってるんだ。あんな借金まみれの庶民とは違う。きちんとした環境下でお育ちだ」

「ふざけんな!俺の方が望美よりも遥かに不健全で歪んでるよ!」


見下した相手を睨み付け、俺は自分のことを振り返る。
そして、自分の親と望美の両親を比べ、歴然とした違いを口にした。


「望美の家族を馬鹿にするなよ。あんたみたいに、正妻もいるくせに次々と女と遊ぶ野郎よりかは遥かに健全で誠実だろっ!」


借金があっても家族が離れずに寄り添っている。
望美も弟も両親を助け、懸命に暮らしを支えてきたんだろうと思う。


「……ふん、見下げ果てた奴だな」


囁くとあいつは二本目のたばこに火を点けた。


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