年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「お前は結婚さえしてれば誠実だと思うのか。一本木に相手のことを思うだけで誠実だと言われんのなら、俺がやってることは、確かに不誠実に見えるかもしれねえよ。
……だがな、俺はちゃんとお前達家族の面倒も見てやっている。苦労せずに済むようお前の母親に金も渡してるし、時々だが、ちゃんと構ってもやっている。
それをお前に非難される覚えもないし、そもそも俺は、お前をもう少し賢い野郎かと思ってたんだがな」


だが、案外と凡人だったらしい…と呟く相手を苦々しく思い、金があれば何をしてもいいのか、と反論してやりたくもなった。

しかし、自分がこんな金の亡者とまともに話すつもりでいたのかと思うと愚か過ぎると感じだして、馬鹿馬鹿しいと思い、椅子を蹴って部屋を飛び出した。


(あんな野郎に何を言っても無駄だった。これならまだ、相手を変えて話をしに行った方がマシだ……)


そして、母にも自分の気持ちをはっきりと告げよう。
俺には好きな人がいて、その人との未来以外に欲しいものは何も無いんだ…と話そう。


それから、望美にもう一度会って話を……


(今更何を…と思われるかもしれないけどな)


それでもやはり自分の気持ちは告げておきたい。
三年以上も待たせておいて、今更だというのは十分承知の上だ。


(…でも、これでフられたらやり切れないな…)


踏み出そうとしたが、勇気が少し萎み始める。
肩を落としてホテルを出た俺に、彼が声をかけてくるまでは、そうだった___。



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