年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
それは本心なの…と話す母の目には確かに嘘はないと思える。
けれど、俺自身が望まない未来を、誰かに押し付けられることほど迷惑なものはない___。



(俺は結局、母さんには愛されてないんだな……)


そう思うと、寂しさが押し寄せる。
これまでは、そう思う時にいつでも望美が側にいたんだが……。


「母さん…俺は……」


睨み付けるとビクリと背中を伸ばし、俺のことを見つめて返してくる母。
俺はそんな母をこれまで慕い、大事にしてきたつもりだったが__


「俺はもう、母さんのお守りはしない。これまでは出来るだけいい息子でいようと心掛けてきたけど、もう……限界だ」


家を出ると言うと母は愕然とした表情に変わり、俺の方に手を差し伸べてくる。


「…そんな…輝…」


まさか、私を見捨てるつもり?と訴える様な眼差しで訊く母を、俺は唇を結んで見守った。


(俺にはもう、母さん以上に守りたい人がいるんだ。それ以上に大切な人は他にいない__)


母を失っても、望美が手に入るならそれでいい。
俺がこの家を出た後、母がどうなろうと俺はもう知らない__。


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