年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
(こんな形で、母さんを放り出すのは忍びないけれど……)


言っても分かる様な母ではない。
勿論心配は山の様にあるが、今は望美との距離を近づけたい。


(俺の為に望美が決断をしたんだとしたら、一刻も早くそれが間違っていると伝えたい…)


もう失いたくないものが何かをハッキリ確信した。


俺は望美を手に入れる。
他に何を失くしても、彼女だけが居ればそれでいい。


気持ちを固めると荷物をまとめて家を出る。
母は玄関先まで俺を追って来たが、俺は母を振り返りはしなかった。


ドアを閉めると奥から泣き声が聞こえ、流石に踏み出すのに勇気がいる。一瞬大いに後悔し、懺悔の気持ちにも襲われ掛けたけれど……。


心を鬼にして歩き出すと、目の前の道が開け始めたような気がした。

これから先の未来に微かな希望と光を感じて、ほんの少しだけ心が軽く弾んだ___。



< 125 / 194 >

この作品をシェア

pagetop