年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「先日のお見合いのことでお話があります」と言うと、察しのいい相手は、「待ってるよ」と軽く返事をしてくれた。


(そこに望美と一緒に出向き、見合いはなかったことにして欲しい…と願うつもりでいるのに)


肝心の望美と連絡がつかないのは困る。
こうなれば、インフルエンザが本当か嘘かを家まで確かめに行くしかないか。


(そうだ。その前に、彼に電話を…)


昨日の午後、ホテルの前で声をかけてきた相手と連絡先を交換したんだった。

俺がその人に電話をすると、屋外での作業中だと思われる相手は、聞き取りにくそうに俺の声に耳を傾けた。



「えっ?インフルエンザ?」

「そうなんだ。そう言って会社に欠勤の連絡があったそうなんだけど」

「…でも、インフルエンザなんて罹ってないですよ。今朝も普通に仕事へ行ったし、サボりじゃないんですか?」


我が姉ながらやるなぁ…と感心しているのは望美の弟だ。
彼は昨日の午後、父親と喧嘩してホテルを出てきた俺を見かけて声をかけ、一言苦言を呈させて下さい、と言ってきた。


俺は彼と会話し、望美の言っていたことが半ば嘘だと聞かされた。

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