年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「なあに?どうしたの?」


電話に出てみると、郁は「間違えた!」と声を発した。


「悪りぃ。彼女に掛けたつもりだった」

「えっ?何よそれ」


フツー彼女と間違える!?と呆れたが、郁は悪びれもせずに、いいだろ…と言い返してくる。


「それよりも姉ちゃんの仕事の邪魔して悪かったよ」

「いいわよ別に」


仕事してないし…と胸の中で思っていると、タイミング悪く館内放送が流れだした。
タワー内で行われるイベントの開始時間の案内で、それを耳聡く聞いた郁が……


「なんだよ。今の」


ひょっとして外でサボってんのか?と訊ねられ、苦し紛れに「たまたまそういう気分になっただけ」と反論。


「へぇー、姉ちゃんでもそういうことがあるんだ」


まっ、いんじゃねーの?と軽く受け流す弟に、妙なところを見つけられてしまった…と反省した。


「ところで何処でサボってんだよ」

「て…展望タワーの上」

「朝っぱらからそんな所に上ってんのか?物好きだな」

「煩いわね!ほっといてよ!」


ついつい姉弟ゲンカを始めそうになり、もう切るから!と耳元からスマホを遠ざけようとした。


< 136 / 194 >

この作品をシェア

pagetop