年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「あっ!姉ちゃん!」


急に大きな声を出した郁に驚き、ビクッとして手が止まる。


「まだ其処にいろよ。何処にも行くなよ」

「えっ?どうしてよ」

「もう少ししたらテナントが開くだろ。其処でしか買えない限定商品があるらしいから買ってきて欲しいんだよな」


彼女へのプレゼントにする言いだす郁に呆れ、自分で買いなさい!と叫んで通話を終了。
呆れる…と呟いて外を見つめ、大きな息を吐き出した。


「もうっ…郁ったら」


すっかり泣きたい気持ちが飛んでいった。
こういう時に家族からの電話は、有難いような迷惑な感じだ。


「まあでも、これでいいのかも」


顔族の顔を思い返してみれば笑みがこぼれる。私は恋人を失ったけれど、他に代え難い存在を手にしてるんだ。


(結局、私は輝よりも家族を選んだって思えば、それでいいよね……)


ズキン…と胸が痛んでしまうのも今だけ。
住む所を決めて仕事を変わってしまえば、輝のこともいずれゆっくり忘れていく筈__。


そう思いながら遠目に見つめる山の景色が霞む。
あーあ、もうやっぱり駄目だなぁ…と呟き、手の甲に落ちる涙の粒を感じ取った。


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