年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
輝に呼ばれ、ビクッと身を震わせる。それでも目線を上げずにいると、輝はこう囁いてきた。


「あんな奴の言うことなんて、もう聞かなくてもいいからな。あいつは俺なんて元々どうでもいい男だし、そもそも今回のお見合いだって、黒幕が実は母だと分かったから」


はぁっ…と呆れたように息を吐き出す輝。
私は、耳を疑いながら目線を上げ、え?…と声を発した。


「母は俺をあいつの子供として、優位な地位に付けたいと欲したんだそうだ。幼い頃から外の子供として苦労させたてきた分、少しは良い目を見させたかったと話していた。…でも、実際は俺の為なんかじゃない。あの人がいつも思っているのはあの男のことで、俺は単に、あいつとの接点にしか過ぎないんだから」


はは…と虚しく笑う輝の声が乾いている。
彼は私の手を解放すると自分の手を握り合わせ、自分の話をどうか聞いて欲しい…と頼んできた。



「俺は幼い頃から、愛情というものが分からずに育ってきたんだ…」


膝の上に肘を付き、上半身を折り曲げる輝。
顔を床に俯けると溜息を吐き出し、目線を上げないまま話しだした__。


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