年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「望美にも言ったけど、俺の両親は結婚もしていない。だから俺は、家庭の団欒とか家族愛には、全く縁もなく育ってきた。家にあいつが来るのはごく稀だったし、来ても直ぐに母を連れだしてしまい、俺は置いておかれるような存在だったから。
母はか弱い女で、あいつがいないと駄目な感じで、あの男には正妻もいれば他に女もいると知りながらも、手を切るほどのことは出来なくて、その弱さから時々、身体や精神を壊すこともあった。……俺はそんな母が不憫で、家を出ることも躊躇われて、これまではそれをしてこなかったんだけれど……」


そう話すと一息つく輝。
彼の頭では色々と思いが巡っているようで、じっと下を見据えたまま口籠っている。


私はそんな彼のことを見つめながら、彼のお母さんのことを考えた。

多分、自分の愛する人の為だけに生きてきたんだろうと思えて、その気持ちを考えると、ぎゅっと胸が押し潰されそうな気がした。


「…俺、前に望美の両親のことを聞かされて、自分とは全然違う環境下で育ったんだなと思った」


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