年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
顔を上げると私を見つめてくる輝。
その眼差しを受け止めながら、ぐっと胸が押し狭まった。


「両親の結婚記念日が『いい夫婦の日』だなんて、どれだけ円満な家庭だろうと羨ましくもあったし、お母さんのこともいろいろと教えてくれて、自慢だと笑う望美が眩しかった。
俺には縁や経験もない事ばかり話してくれて、少し嫉ましくもあったけど、本気でそういうのに憧れるな…と感じたんだ」


切なそうな目で話す彼を見て胸が詰まり、ぎゅっと唇を噛みしめた。


「…俺は、そういう望美と一緒に居れば、自分も少なからず愛を知れるかな…と思った。
家庭の温もりとか家族とか、そういうものを、少しでも身近に感じ取れるかな…と考えたんだ。
俺は何も知らないまま、勝手に望美の家庭を想像していた。苦労なんてものは何も無くて、家族が皆いつも一緒に寄り添ってて、そこには笑顔が溢れ返っているんだろう…と、勝手に決め付けていたんだ」


でも、そうじゃなかったんだな…と囁く輝の声に涙が溢れだす。
そんな絵に描いたような家庭に思われていたのか…と若干呆れ、全然違う…と項垂れた。


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