年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「そんな……いい事ばかりのある家庭じゃないよ。色々あったし、今だってまだ、何とか頑張ってる最中なんだから」


それでもただ、家族が一緒に居るだけのこと。
父の抱えた借金を返す為に、家族中で支え合っているだけのことだ__。


「…うん。そうだな…」


そう言うと輝の手が伸びてくる。
髪を優しく撫でるとコツンと額を寄せ、また「ごめん…」と謝る。


「俺が不甲斐なくてごめん。望美のことを深く知ろうともしないで、本当に悪かったと思う。
俺はずっと自信がなくて…望美のことも勘違いして、上辺だけしか見てこなかったんだ。
正直、情の掛け方も分からなくて、なかなか前にも踏み出せなかった。
…でも、こんな俺に三年以上も耐え続けて、望美がずっと我慢し続けてきたんだろうと思うと、我ながら凄く……情けなくなるよ……」


目を伏せて謝る輝の温もりを感じ、ぐっと熱いものが込み上げてくる。
彼の寂しさとか求めてきた愛情とか、そういうものを初めて知り、ようやく彼を身近な存在に感じだした__。



「…私だって輝のこと、何も知らなかったよ……」


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