年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
両親のことも知らずに勝手に決め込んでいた。
家庭の温もりとも縁遠かったなんて知らずに、自分のことをずっと話し続けてきたんだ。


もしかしたら、自分の知らないところで彼を酷く傷付けていたかもしれない。
愛情とか温もりとか、そういうものを無意識に彼に求めていたのかもしれない。

輝にはいろいろあって踏み出せなかっただけなのに、自分のエゴを彼に求めていただけなのかも__。



「ごめん…輝…」


謝るとポロリと涙が零れ落ちる。
一粒落ちると次から次に溢れてきて、二人の間に沢山の粒が溜まっていく。


「望美…」


何も言わずに私のことを抱き締めてくれる輝。ようやく二人の溝が埋まり始めたのを感じながら、背中に腕を回し、ぎゅっとお互いを抱きしめ合った。

話したいことはもっと沢山あったけれど、今はしっかりと抱き合い、その温もりを離さないでいたいと感じた___。




「……今夜、俺、望美と行きたい所があるんだ」


暫く抱き合った後、彼がそんなことを言い出した。
私はハンドタオルで涙を拭きながら、行きたい所?と訊き返す。


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