年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「ねぇ、いいお話じゃない…?」


そう言いながら指の腹で涙を拭い、父の返事が戻るのを待つ。
私も郁も食い入るように父の顔色を窺い、どうかイエスと言って…と祈った。


シ…ンと静まった部屋の中で、皆が固唾を飲んで父を見守る。
父自身は、その話に安易に乗ってもいいのかどうかを迷うみたいに考え込み、視線を彷徨わせて黙り込んだ__。




「………まあ……そうだな……」


沈黙を破った後で父はそう言うと、まだ素直にイエスと言わずに輝を見つめ返す。
彼は父の視線を黙って受け止めると頭を下げ、「もう一つお願いがあります!」と声を発した。


「俺に、望美さんを任せて下さい!」


えっ…と驚いて輝を振り返った。
私には後からでいいか…と言っていたくせに、それ言うの!?と目を見張った。


「俺の両親はどうしようもない人間達です。二人とも当てにもならないし真面目でもない。
常に自分達のことしか考えてない連中だし、人間的にもかなり歪んでいると俺は思っています。
そんな親の子供に大事な娘さんを任せて下さいと言うのは、もしかしたら間違っているのかもしれません。
…でも、俺には望美しかいないし、彼女となら何があっても乗り越えていけそうな気がするんです」


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