年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
受けたら間違いなく別れることになっていただろう…と話す彼の言葉に胸が痛い。

そんなこと絶対に受けて欲しくもないし、勧められて欲しくもない。
…でも、だからって親を見捨てるのは、やっぱりどうしても違うと思えてしまい___。



「……望美は、自分のお父さんに似ているな」


若干苦笑いして立ち上がる輝。
離れて立つ私の側に来ると髪の毛に指先を沿わせ、「人が良すぎる」と囁いた。


「俺の親は、そういう人の良さにつけ込むような相手だぞ」


散々脅されたんじゃないのか?と問われ、ビクッと思わずしてしまう。

輝と付き合いを続けるのなら影の存在になれと言い、もしも相手にバレでもしたら、それなりのペナルティーを請求するかもしれないと言った、あの人の言葉を思い出した。


「俺の母親は、あんな野郎でも居た方がいいと思う愚か者なんだ。あいつが居ないと本当にまるで駄目な女で、正直、俺はこれまで何度も家を出ようと試みてきた。
北芝電機に入る時も、出来るだけ海外勤務のある部署で働きたいと宣言した。それは、英語に自信があったからじゃないんだ。母から逃れたいと思った。ただそれだけなんだ。
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