年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
長期休暇の度に望美と海外旅行へ行ってたのもそれでだ。国内では、母から逃れてる様な気分にはならなかったから」


呆れるだろ…と呟く輝の顔は悲しそうだ。
自分の気持ちを全部素直に話して、私に理解して欲しそうな目をしている。


「それでも、お母さんからの電話には快く出てあげてたじゃない」


どんなに遠い海の向こう側に居ても輝はいつも笑顔だった。
穏やかそうに話を聞く彼の横顔は素敵で、自分よりも年下なのに親にも親切できて凄いな…と何度も感心させられた。


「そりゃ望美の手前、そうする方がいいと思ってたんだ。
望美の家は両親とも揃ってて健全だと思っていたし、夫婦仲も問題なく育ってきてるから、自分の家族のボロを出したくないと思って、強がって見せてた部分があるんだ。
……でも、俺は本当は母を好きでもないし、寧ろずっと遠ざけたいと思って生きてきた。
俺がいれば、母は俺を使ってあいつとの接点を保とうとするし、あいつからの誘いがあったら、俺が家にいても全く無視して、出掛けて行ってしまうような人だったから」


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