年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
……俺はただ、望美が欲しいだけなんだ。望美がいれば、それだけで自分が幸せだと感じれるから……」


それじゃ駄目か…と声を震わせる輝にジンとする。
自分も輝と居ればそれだけでいいと思って泣いていた日々を思い出し、彼をぎゅっと抱き締め返した。


「私も輝といれば幸せよ。他の人なんて居なくてもいいと思うし、このまま時が止まればいいと何度思ったか分からないくらい」


家のことも全部忘れていられる。
苦しい返済のことも考えなくて良かったし、先行きの不安なんかも覚えずに済んで、このままずっと輝と一緒に居たい…とそう願った。


「……でもね、輝」


腕の力を緩めて私は彼の耳元に話しかける。

私には絶対に家族を見捨てられない理由がある。
それは決して取り除いたり避けたりできないのが家族で、どんなに嫌なことがあったとしても、それを排除したりはできないのだということを、身に染みてよく分かっているからだ。


「私はね…」


輝の顔を両手で包んで微笑みを浮かべる。
彼に笑顔になって欲しくて、自分も、この笑顔を本物にしたい…と祈りながら言葉を選んだ__。


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