年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
黒地にチェックのAラインワンピース。
ウエストの辺りに付いているリボンが可愛いのよね…と笑うお母さんは、年齢よりも大分子供らしい雰囲気がする人で、私は何だか少し拍子抜けしてきて、はあ…と間の抜けた声で相槌を打った。



「……貴女は、輝のことを全部知ってるの?」


急に笑っていた顔を引き締め、そう切り出されてビクッとした。
目線を向けると真剣そうな表情をされていて、私は頷きを返し、「教えてもらいました」と答えた。


「そう…」


しんみりとしたように肩を落とし、ソファの向かい側にある暖炉へと視線を向けるお母さん。

その炎をじっと見つめながら何かを考え込んでいるみたいに無言になり、私は何も言い出せずに戸惑った。



「……私も貴方と同じように、普通の恋愛がしたかったわ……」


ふと声を漏らすと振り向き、こんなどうしようもない母親がいる男でも大丈夫なの?と訊いてくる。


「私は会社の社長の愛人よ。その男には世界中に私みたいな女が何人もいて、あちこち遊び回ってばかりいるのよ」


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