年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
話し声に気づいて目を開けると、部屋の中は薄暗くなっていた。カーテンを開け放したままの窓辺には薄闇が広がり、既に日は沈んでるみたいだ。


(あれ?私……)


一体どのくらい眠っていたんだろうと体を起こしかけると、ベッドの足元に座っているらしい輝の苛立つ声が響いた。


「勝手に決めるなよ!俺はしないと言っただろう!」


ビクッとこっちが驚く様な声に身が固まる。
普段こんな口調で怒るところも見ないものだから、何が起きた?と目を見張った。


ぷつっと電話をタップして切ると、輝ははぁーと大きな溜息を吐く。その横顔を窺うように見つめ、小声で「輝…」と呼んでみた。


ギクッとした感じで、背中を伸ばした彼が振り返る。
私を視界に収めると表情を緩めて、「起きた?」 と優しい声で訊き返してきた。


「ごめんね、私、すっかり眠り込んじゃったみたいで」


電話のことは触れずに謝ると、ベッドに上がってくる彼は私の体をぎゅっと抱いた。


「いいんだ。それよりももう大丈夫か?」


優しく髪を撫でながら訊ねる。
その手の動きにウットリしながら胸に顔を埋め、ん…と頷きながら返事をした。


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