年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
女性は明らかに昨夜の彼女だった。
手には大きなスーツケースを持ち、彼に向いて話しかけている。

輝はそれに面倒くさそうな視線を向けて口元を動かし、時々唇を引き締めながら、仕様がなく相手をしてやっている様な風にも見受けられた。


だけど、周りの目は彼女を見つめて『納得』という感じ。
ホワイトグレーのロングコートもお似合いだし、いかにも高級そうな雰囲気だ。


(あーいうの見ると、ますます近寄れないな…)


後からにしよう…と壁際を進む。
柱の陰から二人の様子を見ていると、彼女が彼に会釈をして歩き出すのが見えた。


(もうチェックアウトするのかな)


ロイヤルスイートには泊まり飽きたんだろうか。
それとも、今から他の場所へ泊まりに行くのか。


何だかこの人なら楽に海外旅行でも行けそうだな…と捻くれて思っていると、その視線が私を捉えてニッコリと微笑んだ。


ドキッとして体が固まる。
彼女は私の方へ向かってくると気さくな感じで、「おはようございます」と挨拶した。


「お…おはようございます…」


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