年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「相手からのプロポーズはまだないの?」


核心に触れる言葉にギクリとする。
目を向けると母は勘が働いた様子で、「まあいいわ」と諦めた。


「お礼を言っておいて。ありがとうございましたって」


袋を手にしてキッチンへと向かいだす。
その背中が幾分年老いたように見え、切なく感じながらも後を追わず二階へと上がった。


奥のドアを開けて部屋の中に入る。
出入り口の側に置いてある芳香剤の香りに迎えられ、ほぅ…と安心する様な息を吐いた。

コートを脱ぎ暖房を点けて、ドサッ…とベッドに体を投げ出して目を瞑る。
輝はもう家に着いたかな…と考え、マムからのお礼を伝えなきゃ…と思っている側から、何となく眠気が襲ってきた。


(昨夜もあまり眠れなかった所為かな)


ボンヤリとしながら、普段にはないくらい私のことを欲しがってきた輝の顔を思い出す。

まるで付き合い始めた頃の様に激しく私を求めた彼のことを考えながら、同時にやはり、あの女性のことが引っ掛かった。


(あの人はどこの誰…?)


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