年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
間違いなく何処かの社長令嬢には違いない。
私みたいな庶民でもないし、御曹司とのお見合いを平気で組まれる様なレベルの人。


(輝が御曹司って……本当にそうなの?)


結局、彼には何も訊けなかった。
訊いてそれが本当だと言われたら、その場で私達の恋愛は終わりになってしまいそうな気がしたから。


(輝が誰かなんて知らなくてもいい。このまま私と付き合ってくれたらそれでいい…)


結婚もしたいけれど、今以上の関係を彼が求めてこないのなら、私から求めることは何もない。


ただ、一緒にいたい。
この旅行の間のように、彼に触れてもらえる自分でいたい……。


(だからお願い。何処にも行かないで……)


手の届かない人になって欲しくない。
それが自分の正直な気持ちだ。


(輝……)


スゥ…と息を吸い込むと、そのまま微睡んだ。
母に呼ばれるまでの短い時間、何も考えずに眠った__。


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