年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
残りの休暇は、輝とは会えずに過ごした。

彼からは時折メッセージが届いてくるものの電話はなく、声も聞けずに、胸の中にモヤモヤした疑問を抱え込んだまま長期休暇は明けた。


「おめでとうございます」

「今年もよろしく」


社内のあちこちで聞かれる年始の挨拶に目線を流すが、会いたい人は何処にもおらず、会えずじまいで仕事始めとなった。


朝から私が浮かない表情で仕事をしていたからだろうか、先輩の今井さんはトントンと肩を叩き、「どうかしたの?」と声をかけてきた。


「心ここに在らずな顔つきよ。彼氏と何かあったの?」


旅先で喧嘩でもした?と言われ、それが出来ればまだいい方だと反論したくなるが……。


「いいえ、何も」


至って平和でしたよ、と微笑んでかわす。
今井さんは、それにしては目の下にクマがあるのね、と鋭く見つけ、悩み事でもあるんじゃない?と訊き返してきた。


「相談に乗るわよ」


そう言われて一瞬だけど心が揺れる。
でも、輝自身が何も言い出さないことを、私が他の誰かに話したりすることは出来ない。


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