年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
そう言うと、チラリとこっちに視線を流してきて、それでは…と続けながら、「取り引きをしませんか?」と提案を持ち掛けてくる。



「取り引き?」


瞼をパチパチさせながら、私は目の前に座る相手を見つめ直す。
輝によく似た顔立ちの人は満面の笑みを浮かべ、「貴女にとっても悪くない条件をご提案させて頂きます」と言い始めた。


「その代わりと言っては何だが、輝とは金輪際付き合わないで頂きたい。あれは私の息子の中でも優秀な人材でね、行く行くは私の後継者にしようと前から思っている子供なんです」


だからお願いします、といった感じで微笑まれ、流石にそれは頭を縦に振ることは出来ず……。



「嫌です!」


キッパリとそう言うと、ぐっと我慢していたものが喉の奥から湧き出してきた。


「私は輝と別れるなんてしたくないです。どんなにいい条件を出されたって、輝よりも大切なものは私には無いんです!」


堰を切ったように言い返すと、フ…と不敵に笑う相手。
私はそんな相手が輝の父親だとは思いたくもなくなり、ムカムカと苛立つものでお腹を膨らませながら、ぎゅっと唇を噛み締めた。


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