年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「小島さん」


名前を呼ばれてハッと我に返る。
目の前にいる相手は薄っすらと笑みを浮かべていて、私はそれを見つめながら、急所を掴まれた弱いネズミのような気分に陥った。


「貴女のことは少し調べさせて頂きました。主に家族構成や学歴、職歴などについて。
…その結果、貴女は申し分のないお嬢さんだというのが分かりました。学校の成績も優秀だし、短大時代には語学留学も兼ねてホームステイも経験しておられる。卒業後も銀行の本店に勤められ、仕事熱心で顧客の扱いも上手く、とても有能な行員だったと元上司の談も記載されていました。
…ですが一点、どうしても気になる事項も記載されてあった。それが私としては、一番受け容れ難い事柄なんですが…」


輝の父親を名乗る相手は渋い表情をして私を見つめ、その事については深く意見を述べず、「ですから、取り引きを致しましょう」と再度同じ言葉を繰り返した。


「貴女には、輝と付き合ってきた三年分の慰謝料と言いますか、貴重な時間を使わせてしまったことへのお詫びを、それなりに考えさせて頂きます。そして、今一番の困り事についても、こちらが援助をしたいと考えております。
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