年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
お前も顔くらい覚えているだろう…と視線を流してきた男は、頭を下げろと目で訴え、俺はそんなこと知るかと思いつつも、全く面識の無い相手ではないから仕方なく、「お久し振りです」と一礼した。


「本当に久し振りだね」


土井社長はニコニコとしながら俺を見返す。
この人には前にいたオフィスでいろいろとお世話になり、無下な態度も取れずに弱った。


「こうしてまた君に会えて光栄だよ」


徳利を傾けてくる相手に、愛想笑いを浮かべて注いでもらう。それを口に含むフリをして、やれやれ…と思う気持ちで注ぎ返した。


「こんな可愛いお嬢さんをうちの息子の嫁に…と考えて下さるとは、こちらこそ光栄の極みですよ」


上座にいる男はそう言うと豪快に笑い、俺はその声を聞きながら、(嫁!?)と胸の中で大きな声を張り上げた。


(俺が?どうして!?)


あんな勢いで会社を辞めた俺を、どうしてコイツはまた…と振り返る。

上座に座っている男はそんな俺の視線を受け止め、ふふん…と鼻で笑ったような態度を見せると相手方に目を向けて、「式はいつ頃に致しましょうか」と言い出した。


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