年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「ちょっと待ってくれよ!」


びっくりして口を挟んだ俺は、右隣にいる母を振り返る。


「どういうことだ」


単なる父親との会食だと言っていなかったか?と問い詰める気持ちで睨むと、母は男の手前からか何も言えず、渋った顔つきで俺を見つめ返し、「お父様の仰る通りよ」と言って唇を閉ざした。


「母さん…」


俺はこの時、初めて謀られたことを知った。
母は俺に、「お父様との会食があるから一緒に来て」とだけ言い、この場所に誘ってきたんだ。



それが、あの年末に仕組まれた見合いの事実だ。
俺は苦痛を感じながらも小一時間以上その場に座らされ、グッタリ疲労して家に帰った。



(けれど、あの泊まったホテルで、彼女と出くわしたのは想定外だったな)


その前に父親から連絡が入り、年末の見合いを進めておく…と言われた。
俺はそれを聞いて逆上し、「勝手に決めるなよ!」と声を張り上げた。

「俺は(結婚なんて)しないと言っただろう!」と怒鳴り付けて電話を切ったところに声をかけられ振り返ると、寝起きの望美が目を見開いてこっちを見つめていた__。


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