年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
だが、あいつとはずっと連絡も取れず、何処に居るのかさえも掴めないまま長期休暇が明けてしまい、焦りを感じつつも出社した途端、メーカーからのクレームが入っていると知らされ、その対応に追われている間に現地に向かえと言われて、仕様がなく日本を飛び立つ羽目となってしまった。



(あいつ……裏でいろいろと工作してないだろうな)


連絡が取れない時は、そういうことをしている野郎だ。
こういう時に水面下で何をしているのか、尻尾を掴ませないのもあいつのよくやる手だ。



あいつ…というのは俺の戸籍上の父親。
「都築光太郎」と名前は記されているが、同一の戸籍に入ったことは一度もない。


あいつは世界中に正妻以外の女を作り、その女達に自分の子供を平気で産ませるような野郎で、俺の母親はそんな男の手に引っ掛かり、俺という子供を産んだ。


婚外子として生まれ育った俺は、世間から常に冷たい目線を注がれ、温かい家庭というものを全く知らずに大人になった。


あいつは母に、「そのうち正妻にしてやる」と嘘を重ねたまま、一向にその約束を果たそうともせずに今も正妻と暮らしている。

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