年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「……ちょっと込み入った話があるんだ。それと、今後について、言っておきたい事もある」


そう話すと、窺う感じで「いい?」と問う。
私は昼間のことが頭を過り、思わず拒否してしまいそうにもなったんだけれど。


「うん…分かった。いいよ」


そう答えると、輝は安心したように小さく息を吐く。
その漏れた吐息に私がどれだけ胸を痛ませ、悩んでいるかを彼は知らない……。


「あのね」


自分も輝に問いたいことがある。
婚約者のこととか、お父さんの言ってたこととか、自分と輝の将来について…とか。
でも。


「今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね。明日からまた頑張って」


訊きたいことを訊けるだけの勇気は私にはない。
訊いてそれが全部本当のことだと言われたら、多分きっと立ち直れない。


(それに今、輝から話があると言ったし)


それを聞いてからでも遅くはないと思い直す。
私が電話を握ったまま、うん…と首を縦に振った時、電話の向こうから輝の声が響いた。


「サンキュー。俺、望美の声を聞くとホッとする」


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