年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
そう言われて私の胸がどんなに弾んで泣きそうになってしまうか。
輝はどれだけ分かっているだろうか。


「遅くにごめん。おやすみ」

「いいよ。大丈夫。おやすみなさい」


名残惜しそうに電話を切る私。
その相手の輝は私との電話を終えた後、いつもどんなことを思うんだろう。



(顔が見たいよ。輝……)


疲れてる顔でもいいから見たい。
ギュッと抱いて「お疲れ様」と言い、その温もりを全身で感じたい。


自分の体を両腕で抱き締めながら、輝のことを想像する。
この間のホテルでの夜が最後でないことを祈る以外に、今の私に出来ることは何もない。


(輝……)


付き合っているのに片想いみたいな錯覚に陥る。
こんな時に彼と離れているのが、すごく心許なく感じる__。



家に帰ってから私は、ずっと彼のお父さんが言っていた言葉を反芻し続けていた。

だから、本来、輝はきちんとした家庭の女性と結婚して、都築商事という大きな会社を引き継ぐ立場にあるんだってことも、きちんと理解は出来ている。

< 87 / 194 >

この作品をシェア

pagetop