年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
私のように後先も考えずに借金の保証人になる父がいる家庭では駄目で、そのことは決して受け容れ難く、むしろ私から身を引いて欲しいとさえ願っていることも分かっている。


(だけど、そうしたら私の気持ちはどうなるの?輝の為に、その思いすらも全部捨てろと言うの?)


持っていたかったらそれでもいい。
けれど、相手の女性には気づかれないように、影の身に徹しるように…と輝の父親は言っていた。


(もしも、バレて破談になればペナルティーを課すかもって言い方だった。あの隙の無さからして、実際に訴えてきたりもするかもしれない。そうなると我が家は……)


ようやく借金を完済していく目処がつきそうで、少し事態が好転し掛かっているのに新たなトラブルが起これば……。


(マムだってきっと悲しむし、お父さんだって郁だって、家族がまた不幸を背負うことになり兼ねない…)


それだけは避けたい。
だからもう、答えはもう一つしかないと分かっているのに。


顔を伏せて掌で覆う。
先は見えているのに、自分の心が決まらない。


(どうしたらいい…?)


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