年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
悶々と悩んでいても夜は更けていくだけ。
自分の気持ちと現実とのギャップに狼狽えながら、輝に会いたい…とそれだけを必死に祈り続けた__。




翌日の夜、父が仕事から帰ると母が話があると言い、私と郁を呼んだ。
私達は部屋を出てお互いに顔を見合わせ、何事?と首を捻り合う。


「…まさかとは思うけど、また借金が増えたとか言わないよな」


縁起でもないことを口走った郁は、そんな事でも言おうものなら親父の顔をぶん殴ってやると息巻く。


「やめてよ。そんな不吉なこと言うの」


背中にゾッと寒いものを感じさせながら階下へ降り、キッチンの隣にあるリビングへ入ると、父は足を組んだ格好でソファに凭れ、母はその横に座って編み物をしていた。



「…話ってなぁに?」


向かい側と斜向かいのソファに腰掛けると、父の目線が動いて私達を捉える。
その視線にゴクッと喉を鳴らしながら、どうか不吉な事ではありませんように…と頭の中で祈った。


< 89 / 194 >

この作品をシェア

pagetop