しせんをわかつ

−− 琴  と 凌治 −−

毎朝、僕と琴は、歩いて大学に向かう。


僕は、自転車を押している。

琴は、その横を歩く。


僕は、建築デザイン科、琴は、薬学科に通っている。


授業が始まる時間がそれぞれ違っても、一緒に通うようにしている。


琴は、一人で歩くのが苦手だ。


昔からだと、きいている。


友達もあまりいないようだ。

人付き合いが苦手だと、言っていた。


僕も、似たようなもの。

琴より、少しばかり、人と接する事ができるだけ、得意ではない。






『…よぅ』


いつもの十字路に、仁科 凌治(ニシナ リョウジ)が待っていた。

同じ大学の、法学科に通う同級生。

同じ高校で、共にサッカー部に在籍していた。

そう、きいてる。


あの火事の日は、サッカー部の引退試合の夜、らしい。



サッカーには、何となく覚えがあった。


いつも走っていた気がする。


いつも、いつも走っていた、気がした。


白い病室で、凌治が持ってきたボールを見て、そう、思った。





琴は、凌治には、心を開いている、ようだ。

他の人に対して、より、少しばかり。


帰りに、僕と一緒に帰れない時は、凌治が、琴を送っている。



彼は、僕達の関係を、偽りなく知っている、数少ない友人だ。




病室で目が覚めて、何日目だっただろう。

ベットに横たわり、白い天井を見上げていた。

その個室には、「妹」の琴が居た。

毎日、何かしらと助けてくれていた。

何もない僕も、そんな彼女を、唯一のこされた家族なのだと、自然に納得し、受け入れていた。

琴は、無理に思い出さない方がきっといい、と言った。


その時の、彼女の瞳を見ていて、あぁ、やっぱりそうなのだろう、と納得した、僕がいた。




………コン、コン、コン。

ノックの音。

遠慮がちな。それまで聞いた事の無い、ゆっくりと響く音。

看護士でも医師でもない。


『…はい』


僕が答えると、ゆっくりと、扉がスライドして、浅黒い肌の、凌治が立っていた。


サッカーボールを抱えた、制服姿。


 
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