しせんをわかつ

−− 視線の共有 −−

 


大学へ真っすぐに続く、一本道にさしかかった。

何人もの学生が、自転車や、バイク、徒歩で、同じ方向に、向かっている。


車道に、バスが来た。

これも、大学に向かっている。


何気なく、そのバスの方を、見やった。


……………………


− 視線の共有 −−−


昨日の、彼女だ。

バスの中に、彼女が立っていた。


月明かりの下、ナイフを、男の首に突き立てていた、彼女。


でも、まるで、別人のよう。


瞳が。

ただ、互いの視線を共有しただけ。


何の感情も無い、瞳が、偶然、僕の瞳を、とらえただけの、時のはざまだった。




昨日の、青白い炎のように、獲物を狙う狼のような、瞳ではなかった。




でも、僕は、彼女に、また、とらえられて、しまった。


そう、感じた。


遠い昔に、感じた事のあるような、心がざわざわと、波立つような、不安な気持ちを、感じていた。






 
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