しせんをわかつ
 
大学の門を抜け、すぐに琴とわかれた。

彼女の学部は、門を入ってすぐ、左手方向にある。

学内に入れば、どうにか、琴も、一人で歩けない事もないのだ。




凌治と二人、真っすぐ進んでいくと、池があって、その周りには、いつも学生が何人かいる。

待ち合わせをしていたり、昼頃には、周りの芝生で、昼食をとっている学生もいる。天気のいい日には、読書したり、昼寝したり、仲間同士で賑わっていたりする。




そこにまた、彼女が、いた。


池の周りに置かれたベンチの一つに、腰をかけて、読書しているようだ。


…ドキンと、僕は自分の心臓が、一回、鳴るのが、わかった。

不安な、ざわつきだった。




『…聡、どうした?』

様子の違う僕に、凌治がたずねた。


『…あぁ、凌治、あそこにいる女の子、知ってるか?』


たずねた僕に、怪訝な表情をしたが、療治は答えた。

『…一応、知ってる。俺、隣の学科だし。結構、有名だから。』

『……有名?』

『まぁ、相当モテるってのも確かだけど、それより、すごいらしい。』

『……?』

『大学の演劇部にも所属してるらしいけど、町の劇団にも入ってて、そこで結構、有名な女優らしい。』

『へぇ〜…女優ね。』

『……珍しいな、お前が女の事、きいてくるなんてな。』

凌治が僕の目を見る。

『…昨日、帰り道で、見たというか、会ったんだよ。』

『バイト帰り?』

『そう。何か変な所、見てしまって…』

『変な所?』

『男と、揉めてた。ナイフを持って、そいつに突き立ててたよ。何か、普通じゃない空気で…』

『ナイフって、それ大丈夫なのか?』

『突き立てる格好をしてただけで、実際に刺した訳じゃない。男は迫力負けって感じで、放心してた。』

『…ふ〜ん、何だかすごい所、見たんだな。まぁ、俺の学科でも、相当な女だって噂だけど…』

『…そんな感じだな。』

ふぅ、と、僕は溜息をついた。

『……興味、あるのか?』

まだ、僕の目を見ている、凌治。


『いや…ちょっと、そういう気には、なれない、タイプだな』

『確かにその通り。』

凌治は、少しだけ笑った。

 
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