しせんをわかつ
『さっきの奴、もういないね。ありがと。助かったよ。』
微笑む彼女は、途端に、普通の女のコになった。
『じゃ、またね…聡クン。』
そう言って、反対方向に彼女は歩いて行った。
その後ろ姿を、僕は、しばらく、見つめていた。
あれ…そうだ、あの時……
彼女は僕の名前を言った…?確かに「聡君」と。
はっきりと聞こえた。
何故、知っていたのだろう。会ったのは昨日が初めての筈だ……
…会った事はないはず、少なくとも高三の夏以来は。
それ以前は…あまり考えられない。僕が育った土地と、この大学がある土地はかなり遠くなのだから。
……考えても答えの出る問題じゃないな……
僕は、講義を受ける為、学部の入口の階段をあがっていった。