散夏
「おま、もうそろ禁煙しろ」
「それが出来たら苦労しないんだなーこれが。何用」
「暦(こよみ)、校舎中探し回ってカンカン。何したんだよお前」
「あー思い当たる節しかねーわぁ」
今日の登校日迄に終わらすようにときつく言いつけられていた夏休みの課題、それを全てすっぽかしたのだ。
夏休みに入る前、この課題だけはせめて終わらせないと進級も危ういと本気で脅されていたのをつい昨日思い出して、困った末になんとかして空のページを埋めた。
担任のこよっちの似顔絵オンパレードにして。
「渾身の出来栄えだったのに。お気に召さなかったとは」
「アホなことしてっからこうなる。初めから黙ってやれよ課題」
「やる気出んかったんだからしゃーない」
にへら、と笑ったら隣から飽きれた目で睨まれた。柵に背を預けて空を眺める自分の隣、そいつは柵に腕を引っ掛ける。横目に見た明るい茶髪は、薄明かりに浮かぶ太陽と似ていた。
なんかいいなあ、と新しい煙草を咥えるのに、火をつける前にやっぱり隣からぴっ、と抜き取られる。
「しつけーぞ」
「いやお前がな」
「世知辛い世の中だよ全く。非喫煙者(おたくら)喫煙者(こっち)の言い分まぁるでガン無視でさ」
「と言うと?」
「口が寂しい」
「他のもん咥えてろ」
「例えば?」
「飴とか」
「子供騙し。こちとら17だぞ、じゅーなな、もっとこう大人の見解提示して」
「じゃキスでもしとけば」
「お、いいねそれ。頼むわ」
目をつぶって、俗に言うキス顔なんてのをしてみた。秒で「なんちゃって」と笑うつもりが、その上に相手の顔が重なった。唇に触れた柔らかな感覚は確かにそこにあって、
目を見開いたらほんの少し置いた距離で飴色が泣きそうに揺れていた。