散夏
「一緒に謝ってやっから。はよ来いよ」
さも何事もありませんでしたみたいな体でやつがそう、呼ぶから。
こっちも一拍遅れて「あ、おう」なんて生半可な相槌を返した。
「あっきー!あっきあっきあっきあっき」
あっきいいいい!
歩くたび常日頃からぴょこんぴょこんと効果音が付きそうな彼女に、ベビーシューズをプレゼントしようしようと思って結局今日になった。
クラスでも唯一無二の親友である杏子(あんず)は真向かいの席に座るとぷう、ともちもちのほっぺたを膨らませる。
「リスの真似」
「ぶー! あっきーぶっぶー! てかもーばってん! なんでこんな日にまでお寝坊さんなわけさ!」
「寝坊じゃないよ。学校来てたもん」
「っどーせまた屋上でタバ」
言い切る前に杏子の頭を掴んで伏せたら、勢い余っておでこからがつっ、と鈍い音が鳴った。未成年喫煙、これこのクラスの人間には周知の事実であったとしても気休めのオブラートは必要不可欠。
自業自得なくせにやらかした、と手を退けたら身動ぎする涙目にむくれっ面。
「ごめん、勢い余った」
「痛いよう」
「ごめんて」
「いーこいーこして」
いい子いい子、と杏子のおでこを撫でてやったらそれだけで幸せそうに目を細めた。仔犬のような単純さだ。今まで何度この屈託のない笑顔に救われて来たことか。