赤いジャケット
ライブハウスに着くと、
直ぐに キミは歌う番が来て、
あたしは ずっと きみばかり見てしまってた。

何かに急かされるように、だけど何より、楽しそうに
歌うきみの声がすき。高音で伸び切れなかった声の欠片が、掠れる小さな叫びになる、
胸を締め付けられそうになる、その叫びの切なさが好き。
歌が好き。このバンドが好き。
だから、こんな風に、スタッフになって手伝える、
カノジョじゃないけど、近くにいれる。

演奏が終わって、物販の椅子でグッタリしてるきみに
わたしが「おつかれ」と、笑い話しかける。
「今日はほんとに疲れたよ。年かな?」キミが冗談ぽく言いながら笑った。
あたしもつられて笑った。

このままで十分じゃない?、そう言い聞かせる。
それは本心だって、本気で思う、思った瞬間、



けたたましい程に高音の女の子の声、
きみに話しかける。
カノジョの声。
< 2 / 9 >

この作品をシェア

pagetop